映画のソーシャルネットワークを見て感じたことが大きかったため、記載しておきたい。
【単純な映画感想として】
非常に面白かった映画だった。
・フェイスブック創成期の熱狂と葛藤が、圧倒的なスピードで描かれる。アメリカン・ドリームとその虚栄、訴訟社会、若者たちの稚拙と青春のほろ苦さが2時間に巧く凝縮されている。
・最初の1コマから頭はいいものの、その頭の良さに振り回され、世間知らずで誤解を生んでしまうというキャラをうまく描いていることに感心した。自分自身の母校である東大にもこんな人いたなあと微笑ましく思った。
・どんどんこじれてゆく登場人物間の人間関係がミソである映画において、緊張感を漂わせる描写が秀逸。観た後に、これほどまでに人と映画について(どこですれ違いが起きたか、どうやって防げたか、観て何を思ったか等)を議論したくなる映画は初めてだった。
・少々残念だったのは、(Facebook自体がいまだ急成長中の企業のためか)落とし所に悩んだなという印象が残ったこと。
【個人的に思ったこと】
①ベンチャースタートアップ時における示唆に富んでいる映画における一つのメインテーマが主人公のザッカーバーグとサヴェリンのどんどん開いてゆく溝。
観ている側に非常にもやもやした感情を抱かせるこの展開ではあるが、本当はこの悲劇は避けるべきであろう。
「ビジョンは何なのか」、「何を大事にしてビジネスをやっていくのか」、「何はやってはいけないのか」等をとことんすり合わせ、決めた後は徹底遵守するべきである。
青臭い意見にも思えるが、やはり僕はこれこそが誰かと組んでビジネスを始める以上一番大事なことだと思う。
もしこれが出来ない相手、もしくは信用しきれない相手であれば、それは本当は組むべきパートナーでない。
まあ、これがうまく出来なかった主人公のオタクさ、稚拙さ、ある意味での純粋さが売りでもある映画なのは事実であるのだが。。
②スペシャリティがものを言う時代であるザッカーバーグは当初Facebookのアイデアを自分で考えていた訳ではない。
ハーヴァード・コネクションを立ち上げようとしたウィンクルヴォス兄弟から相談され、それに乗る形で作成を始めるのである。
それに対し、ウィンクルヴォス兄弟がザッカーバーグを訴えるのだが、その訴訟の場面においてザッカーバーグは、「やつらが僕を訴えるのは生まれて初めて自分が手に入らないものがあったから」「くやしかったら自分でフェイスブックを作ってみろ」と言った言葉は相当程度に真実である。
やはり作成できる能力を持っている者こそが最終的に勝つのである。
もしそれが無く、ウィンクルヴォス兄弟の様にアイデアしか出せないのであれば、契約等で縛らなければならないのは仕方の無いことだろう。
これは親友のサヴェリンも同様であり、最初は資金提供をしたりして一定程度価値を出せたが、最終的には代替が効く様になり、放り出されてしまった。
自分にしか出来ないことを追求し、それを出せる体制をちゃんと構築するということはビジネスの肝であるとも再認識させられた。
③起業するならやはり米国(特にITアプリケーションにおいて)単なる学内ネットワークサイトとして始まったFacebookがあっという間に世界に拡大し、企業価値・株価も右肩上がりに大きくなるという現代版アメリカンドリームを描いた当該映画。
観ていて、なぜこういう会社が日本からは出ないのか非常に残念に思った。
僕の原因仮説は以下。
i)日本発ITベンチャーは言語的な環境故にパイが取れない
Facebookを例に出すまでもなく、ITアプリケーションはユーザー数が命。
日本語を母国語にすると、そもそもパイの総量自体が数千万人レベルとなってしまうことの限界が大きい。
ii)日本において高いValuationがITベンチャーに付かない
日本にはベンチャー精神溢れるVCが存在せず、殆どがいわゆる大企業論理で動くVCである。
そのため、米国みたいに本当に右肩上がりで成長するベンチャーに超高値が付くということが殆ど無いように思う。
それ故に成長資金を得にくく、右肩上がりの成長も描きにくいのでは。
iii)高い価格を付けて優良ベンチャーを買収しようとする事業会社の不在
同様に事業会社(ストラテジック)も高いValuationを付けられるほど貪欲な成長モデルを描いているところが少ない。
iv)その他
上記のような環境のため、日本人が起業そのものに向かいにくい。
起業する場合も、米国ではやったものの真似みたいなものが多く、成長余地に欠ける。
など。
(ZARAやIKEAの様なモノを扱うビジネスで日本勢が戦える可能性はあるが、ここではその議論は省く)
そう考えると、日本でITベンチャーを作る意味合いは相当程度に乏しいのではないか。
上記した日本におけるITベンチャーが不利な理由の裏返しになるが、米国であれば世界中にユーザーを拡大できる可能性があるし、それに対してバカ高いValuationが付く可能性もある。
税制の面でも、デラウェア等で設立した方が有利であることも見逃せない。
日本でやる理由があるとすれば、日本市場へのこだわりや、日本への貢献など、心情面で見出すしかないのではなかろうか。